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会報135号(2015.7)5頁

 (公社)富山県鍼灸マッサージ師会による会報135号(2015.7)5頁です。

青年部講習会「一次救命措置(BLS)講習会」

青年部長 北 虎哲

 平成27年3月1日(日)午後1時30分より、(公社)富山県鍼灸マッサージ師会会館3階ホールに於いて、富山大学医学部第3内科 消化器内科医・日本救急医学会認定ICLSコースディレクター 三原 弘先生をお招きし「一次救命措置(BLS)講習会」を開催させて頂きました。

 一次救命措置(BLS)の講習会は、昨年青年部講習会でご講演頂きました一般社団法人日本統合医療支援センター代表理事 織田 聡 先生が開催されておられます統合医療支援セミナーでも必ずプログラムされている内容で、医療従事者として身につけておくべき必修課題の一つです。

 もしも施術中に突然患者さんが意識を失ったら?患者さんが心肺停止に陥った時に救急車到着までの10数分の間に、医療従事者として適切な処置を行えることは鍼灸師にとっても重要な技能の一つです。また、鍼灸院経営者としてもリスク管理として非常に重要な課題です。

 講習の内容は、敢えて市民向けの一次救命措置の講習となっておりました。

 三原先生からお話をうかがったところ、病院内に於いて医療従事者を対象に救命処置の講習を行う際は、一次救命から投薬等を含む二次救命へかけての講習を行われるそうです。“常に蘇生処置に関わっている者(医療従事者)”の為の講習としては、これは当然の形なのだろうと思います。

 それに対して、鍼灸院という現場で求められることは、病院へ搬送するために、最善の方策を採りつつ如何に速やかに救急隊へ引き渡すか?という事なので、その流れについては市民向け、つまり“蘇生処置を日常的に行っていない者”が備えるべき一次救命の講習内容が適するというご判断だと思います。

 実際の講習は、まず講習前に5択のテストを9問行い、そこから一通りの流れを知るために15分ほどの福井市広報ビデオ「応急手当マニュアル 救急車が来るまでに」を供覧しました。このビデオはインターネットで無料で見られますが、非常に良くまとまった内容でした。

 それから、順を追って説明を受けつつ、デモンストレーション→実技の繰り返しを行いました。今回は、私の手配が遅かったものですから、モデル人形やテスト用のAEDが用意できず参加者同士でペアを組んでの模擬訓練になりましたが、それでも一通り身体を動かしておくということは大切な訓練でした。

 三原先生からも、「こんな事は解っていると思っていても、現実に患者さんが倒れられられるとパニックを起こして何も出来なくなるものです。10回もこういう練習を繰り返しておくと、いざという時に身体が動きます。」とのアドバイスがありました。

 実際の一次救命の流れですが、最新の指針では以下の通りになります。

  1. 周囲の安全を確認、感染防護(手袋を付けるなど)
  2. 反応の確認
  3. 救急車の手配、AEDの取り寄せ、協力者を集める(胸部圧迫は重労働である為)。
     成人の心停止は大半が心原性である為、出来るだけ早くAEDで電気ショックを与える事が重要。
  4. 正常な呼吸の確認を10秒以内で行う。喘ぎ呼吸(死戦期呼吸)は正常呼吸ではない。
    医療従事者は頸動脈の確認も行うが慣れていないと難しいので省略して良い。
     →正常な呼吸がない場合はすぐに胸骨圧迫を行う。
  5. 質の高い心肺蘇生
     A 頭部後屈、あご先挙上
     B 感性防護機能のあるマスクを使って人工呼吸
       過換気を避ける。
       1秒掛けて胸が少し上がる程度に2回行う。
       胸骨圧迫の中断時間最小限(10秒以内)で。
       感染防護マスクがない場合は無理に人工呼吸を行わなくても良い。
       胸骨圧迫を30回につき人工呼吸を2回行う。これを繰り返す。
     C 胸の中央部(胸骨の下半分)を、強く(5cm以上)、早く(100回/分以上)
       圧迫解除は確実に行う。
  6. AEDを使用する。
     AEDが到着したらすぐに使用する。
      a,まず“電源を入れる”事が最重要。電源を入れればAEDが使用法をアナウンスしてくれる。
      b,パッドを胸に装着し、ケーブルを接続。この感も可能なら胸骨圧迫は継続する。
      c,心リズム解析とショックボタンを押すときは傷病者から離れる様に周囲に伝える。
      d,ショック後から直ちに胸骨圧迫を再開
      e,AEDは2分毎に心電図の解析を繰り返すのでそのたびに必要なら電気ショック
      f,目的を持った動作がみられるまで蘇生処置を繰り返す。
       ↑或いは救急隊の到着・引き継ぎまで
  7. 救急隊が到着したら、意識を失った時の状況、AEDの回数などを簡潔に伝える。
    ※現場に傷病者以外に自分しかいない場合は?
    AEDを行う事が優先なので、院内にAEDがある場合はまずAEDを使用する。
    AEDが院内や近くにない場合はすぐに119番通報をして救急車を呼び心肺蘇生を試みる。
    ↑1人院の鍼灸院ほど、AEDは設置しておいた方がより救命率があがると思われる。

 なお、これら一次救命のデモンストレーションと模擬訓練の他に、鍼灸院内で遭遇しうる内科救急疾患についてのお話もありました。

 血管迷走神経反射、俗に脳貧血と言われる状態が起こった場合は、橈骨動脈が触れているようなら血圧は80mmHgはあり、脳への酸素供給は保たれている状況と判断出来るそうです。

 気胸による閉塞性ショックの際は、頸静脈が怒張し、胸郭の挙動がみられないそうです。

 また、患者さんが来院時に、肩の痛み、みぞおちの痛みをを訴えて、動脈硬化の危険因子がある場合は、狭心症・心筋梗塞なども疑われる為注意が必要とのことです。

 同様に、来院時の事ですが、突然・過去最悪の増悪性の頭痛を訴える様な場合はくも膜下出血の危険もある為、緊急に総合病院を受診して頂く必要があります。

 また、片側の麻痺、一側のしびれ感、言語、片側の失明、失調、意識障害、高次脳機能障害がある場合は脳梗塞を疑い、これも緊急に総合病院の受診が必要となります。この場合、血栓溶解療法の適応は発症から4.5時間までとの時間制限がある為、受診を迷うことは危険ですとの事でした。

 今回の講習を受けて思いましたが、一次救命措置というのは、“講習を受けて身につける技能”や、まして“認定を受ける”という類いの物ではなく、むしろ避難訓練のように、緊急時を想定しその際にどう動くか?を日常的に訓練しておくべき物、つまり講習ではなく“訓練・練習”であらねばならないのではないか?と思いました。

 そう考えると、鍼灸院に必要な一次救命の訓練は、院内に現場が限定されることから、現場での事案発生の想定と訓練ではないかと思います。

 現実に施術ベッドで患者さんが急変されたとしたら?AEDは近くにあるのか?自分と患者さん以外に院内には誰が居て、協力をあおぐ事ができるのか?

 実際に急変が起こったと現場で想定して動いてみて、最良の方法を設計しておき、それを定期的に実際に身体を動かして訓練をして、いざという時に動ける様にしておくこと。そして、可能ならAEDを一台リースするなりして院内に設置しておくことが望ましいのではないかと思いました。

 これを機会に、是非会員の皆様も、院内を見回して、実際に患者さんに急変があったらどうなるだろうか?と一度よく考えて見て下さい。

 また、可能ならば、院内に一台AEDを設置しておく事を検討して見て下さい。

 以下に三原先生から頂きました関連資料のURL等を列挙しておきます。

 さらに学びたい、近くのAEDの場所を知りたいという先生はご活用下さい。

【関連資料リンク先】

救急蘇生法の指針 2010(市民用・解説偏)監修:日本救急医療財団心肺蘇生法委員会

 http://kyu-kyu.city.fukuoka.lg.jp/wp-content/uploads/2013/12/zenbun_.pdf

福井市広報ビデオ「応急手当マニュアル 救急車が来るまでに」

 https://www.youtube.com/watch?v=JyphbszHlsA

喘ぎ呼吸の参考(動画)

 https://www.youtube.com/watch?v=CBMxH4xtE8w (演技)

 https://www.youtube.com/watch?v=ICODRFoWZkw (1:30〜1:37付近)

日本全国AEDマップ

 http://aedm.jp

AED設置場所検索 富山県

 http://www.qqzaidan.jp/cgi-bin/database.cgi?equal2=%95x%8ER%8C%A7

講演される三原先生
講演される三原先生