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会報139号(2017.7)10頁

 (公社)富山県鍼灸マッサージ師会による会報139号(2017.7)10頁です。

健康だより 第11号

内臓と心について

 解剖学者 三木成夫先生は著書「内臓とこころ」で、内臓に関して興味ある説を展開しておられました。漢方の五臓と五情の関係から興味をもって拝読しておりましたが、余りにもハイレベルで難解なので手に付かず、長い間つんどく状態にありました。ところが先日、三木先生の弟子である解剖学者 布施英和先生の著書「人体 5億年の記憶」が出版され、偶然目に留まり手に取ってみましたところ、三木先生の学説がとても解りやすく解説してあり感動しました。浅学非才の私でも深遠な世界を多少とも理解できた気がします。

 その中で呼吸器系の肺は、全ての内臓の中で唯一動きを止めたり動かしたりして、自らの意思でコントロールすることができます。空気は口(鼻)から咽頭、喉頭、気管、気管支を通って肺胞に至り、ガス交換(二酸化炭素を排出して酸素を吸収)してまた同じ経路を通って口(鼻)から出る。これは食べ物が口から胃腸を通って肛門に抜ける一直線の進行に対して、呼吸はマラソンコースの様に折り返し点に肺があって、又同じ経路を戻ってくるのと同じで、時間の経過では過去から未来の一直線に対して、波の様に寄せては返す円環の状態であろうと考えられます。なぜ肺だけが意識でコントロール出来るのか?生命はおよそ3億年前まで海の中で暮らしていました。そこでは体の基本的な構造はほぼ出来上がっていましたが、上陸しそこで起こった最大の革命は呼吸器を作ることだったらしい。

肺は膨らんだり縮んだりして空気を吸い込み吐き出すが自分で動く力はない。呼吸には胸式呼吸と腹式呼吸があり、どちらも肺が入っている胸郭の容積を大きくするものである。胸式呼吸は大胸筋、小胸筋、肋間筋などが収縮して胸郭が大きくなって受動的に息が吸い込まれる。腹式呼吸では呼吸の為に特化した横隔膜が収縮して胃腸を下方に押しやり胸郭を広げて息を吸い込む。意識が忙しくなって骨格筋が収縮して働かなくなると、横隔膜だけが働き(縮み)、呼吸は吸いっぱなしになってしまう。緊張が続くと肩が凝り、僧帽筋が縮み、大胸筋や小胸筋が上がり、肋骨が上がり、胸郭が大きくなって息を吸ってばかりになる。これでは息が詰まってしまう。そこで肺に充満した息を抜くには深呼吸でゆっくり大きく吐くがよい。すると息詰まりも消えて心も落ち着いてくる。深呼吸で重要なのは何より深く「吐く」ことである。息を吐くことでリラックスできるなら、お喋りするのも歌を歌うのも笑うのも同様であり、呼吸は意識や心と深く関係している。

 生物は上陸するまでの数百万年にも及ぶ水辺の生活の中で、浪打のリズムが人間の呼吸のリズムと深い関係が出来たと思われる。水泳で水から顔を出したときに息を吸い、水に顔を浸けたときに息を吐くように、波のリズムが私たちの呼吸のリズムの奥底に生命の起源として残っている。呼吸を整えるには海辺に行って、その波に合わせて自分の呼吸をしてみる。真の息抜きとは海辺の時間で体験できるらしい。最近はいじめとか過労死とかパニック障害とかうつ病とかですべては激変する社会に適応できない人間関係の問題ばかりです。花鳥風月を詠むなどと高尚な趣味は無くても、元来人間も自然の一部ですから、呼吸を意識的に天地自然の息吹に合わせる快感を大切にしたいものです。

文責 林