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会報139号(2017.7)6-7頁

 (公社)富山県鍼灸マッサージ師会による会報139号(2017.7)6-7頁です。

青年部講習会「在宅医療への挑戦」

青年部長 北 虎哲

 平成29年3月5日(日)午前10時より、(公社)富山県鍼灸マッサージ師会会館3階ホールに於いて、和歌山県鍼灸師会会長・はぎの鍼灸院院長 萩野利赴先生をお招きして、28年度学術講習会にて取り組んで参りました地域包括ケアシステム関連講習の締めくくりに、臨床の実際をお伝え頂くべく「在宅医療への挑戦」と題した講習会を開催させて頂きました。

 萩野先生が在宅医療患者さんへの往療を始められたきっかけは、退院患者さんの受け皿がない事を憂い、在宅医療に力を入れて新規開業を考えておられる内科医からのお誘いだったそうです。そうなると、当然往療を行う相手は“在宅医療で”介護などのケアを受けておられる患者さんです。鍼灸師が往療先として漠然とイメージする、“年齢を重ねたお爺ちゃん・お婆ちゃんが、居間でお茶でも飲みながら、足腰が痛いと言っている人達”ではなく、ICUの様に、介護ベッドの周りを医療器機に囲まれ、呼吸器やら点滴・導尿の管がベッド周りをうごめいているような状況の患者さんに往療を行う事になったそうで、これは勉強しないといけないと改めて思われたそうです。

 また、開業鍼灸師による療養費の往療とは言え、対象となる患者さんは在宅医療と介護支援を受けておられますので、主治医・訪問看護ステーション・ケアマネージャー・介護施設との連携が不可欠になってきます。その為本講習会では、在宅医療・介護を受けている患者さんへの療養費での鍼灸往療を、患者さんを支える医師・訪問看護ステーション、ケアステーションとの連携を行いながら実施していく実践的なノウハウをご紹介頂く内容となりました。本稿では、それらを簡単にまとめてご紹介させて頂きたいと思います。

【往療開始前の手続き】

 通常の療養費での施術にも準じる事ですが、大きく異なるのは、患者さんが受けている介護サービスのスケジュールを把握しておくことが大事です。また主治医は同意書発行をお願いする以上に緊急時の連絡や経過の報告などでより強い連携が望まれます。また訪問看護ステーションや介護サービスとの情報共有も大切になりますので、これらの確認も重要です。

  1. 主治医の確認
  2. 保険証の確認
  3. 既往歴、減病歴、注意事項の確認
  4. 介護サービス、スケジュールの確認 患者さんは色々な介護サービスを受けている
  5. 緊急時の対応、連絡先の確認 無呼吸や急変時に誰に伝えれば良いのか?主治医?家族?
  6. 駐車場の確認 折角頑張って往療しているのに駐禁をとられたら辛い。また、駐禁を気にしながら治療するのは難しい。患者宅の駐車場があれば一番だが、近場に探しておくことが大事。

 ※デジカメの活用
  保険証等の書類はデジカメで撮影してくると転記ミスもなくメモとして使いやすい。

 ※各曜日・各日の時間で介護サービスのスケジュールは決まっている。
  訪問入浴、デイサービスなどのスケジュールの隙間を狙って往療を行う。
  毎月更新されるので毎月確認する必要がある。

【医師への同意依頼】

 医師への同意依頼は通常の療養費での施術にも準じますが、同意をお願いする医師は在宅医療での主治医でもあり、より連携を密にしていく相手でもありますので、しっかりとした信頼関係を築く必要があります。同意をお願いされる医師は、どこの鍼灸師が?どんな治療をするのか?この鍼灸師に任せて大丈夫か?といった不安を抱えたまま、信頼関係のある患者さんから同意書の発行を依頼され、無碍に断ることも出来ずに苦慮される場合があります。その為、同意をお願いする主治医に対しては、同意書用紙をお渡しして頂くだけでなく、“症状の把握”、“どのような治療を行うか?”などを文章で沿えてお伝えすることが、顔の見える信頼関係を気付く第一歩となります。さらに萩野先生は同意書を発行して頂いたらすぐに礼状をお出しするそうです。

 また、再同意の際は、経過の説明をし「継続が必要ですので口頭同意で良いので再同意を下さい」という文章をお渡しして再同意をとっていただくようにするそうです。ここでも、経過をきちんと説明する事が重要になります。そして、再同意を頂いたら、またすぐに礼状を出すそうです。そして、最後に大切な事が、治療が完了した際には、治療完了の報告を文章にして同意医師に送るようにされているそうです。同意して頂いたらやりっ放しではなく、どのような経過でどのような転帰となったか報告することが信頼につながるそうです。

 これらをスムーズに行う為にも、事前に同意医師宛の封筒や、文章の原稿(テンプレート)を用意しておくと作業しやすいそうです。

【他業種との情報共有】

 他業種の連携は情報の共有がとても大切になります。鍼灸師から情報を主治医や訪問看護ステーションへ出して行けば、逆に医師や訪問看護師からも情報が帰ってくるとのこと。その為にも、“はりきゅうサマリー”として、治療の目標、施術内容、経過の概略、往診日などを常々まとめ、主治医や訪問看護師から情報の照会があった際にパッと出せるようにまとめておられるそうです。この記録は義務ではありませんが、患者さんの振り返りにもなるため、是非記録しておくと良いのでは無いかと薦められました。

 また、記録としては往療一覧表に、介護保険サービスの内容、緊急連絡先などをまとめて起き、携帯電話に緊急の連絡先を事前に登録しておえば、慌てた際にも番号の押し間違えも起こさないのでお薦めとのことでした。

【鍼灸賠償責任保険】

 往療の在宅患者さんはリスクが高い存在でもあります。その為、賠償責任保険には必ず加入しておく事が望まれます。また、記憶と記録は異なります。記憶は思い込みで変わってくるものですから、走り書きでも良いので必ず記録を残しておく事が大切になります。鍼灸の賠償責任保険は自動車保険のように示談交渉を代行してもらえません。自分で示談交渉を進めていく必要があります。ですが、仮に事故が起きた際は鍼灸師会会員の皆さんには仲間が居ます。事故が起これば仕事も手に付かない程に悩むことがあるが、皆で助け合って行けるのだから悩まないで下さいとのことでした。

 マスクは飛沫感染の防止の為で、自分が患者さんの間の媒介者にならないためにも重要。

 また、手袋は、おむつから漏れた排泄物や嘔吐の際の吐瀉物などに接するさいの感染予防の為に必要。

【まとめ】

・在宅へ往療を始めるには、制度の周知が必要地域包括ケアなどの体勢はもちろん、訪問看護支援センターや高齢者専門住宅、往診をしてくれる医師などの地域の情報を知っておくことは大切。

・いろんな職種の方々との信頼関係の構築と連携を!それには 情報の出入りをさせることが大切になる。しかし、鍼灸師は文章を書くことが苦手な人が多い様に感じる。はじめはつたない文章でも書いていれば慣れても来る。頑張って情報を伝える為に描いて欲しい

・最大の師匠は患者さん!昨今は弟子入りをする鍼灸師が減ってきている。だが、もっとも身近な師匠は患者さんであるといえる。患者さんは正直ですから、自分の治療については患者さんの声はもちろん、時には表情や身体の変化を読み取って教えて貰う。

・鍼灸師の活躍が期待されています!

以上のような事を多数のスライドを使って丁寧に解説して頂きました。

講演される萩野先生
講演される萩野先生

萩野先生の実技指導
萩野先生の実技指導