(公社)富山県鍼灸マッサージ師会による会報138号(2017.2)3頁です。
富山支部 中野剛志
平成28年8月28日(日)に富山鍼灸学会スキルアップセミナーが開催され、受講してきました。テーマは「現代医学的鍼灸〜効果を出す刺鍼部位と刺入深度〜@頚肩腕症候群(頸椎症を中心に)A腰下肢痛(腰部脊柱管狭窄症を中心に)」講師は東京大学医学部附属病院リハビリテーション部鍼灸部門主任 粕谷大智先生です。今回は鍼灸臨床において再現性のある技術の習得を目指すセミナーで、臨床的に裏付けされた解剖学的な刺鍼部位の触診と刺入時の深度に重きがおかれました。最初に東大病院の紹介と東大病院で実際行われている鍼灸治療をスライドで拝見させていただき、本論に入りました。
前半は頚肩腕症候群の鍼灸治療(頸椎症が中心)頚椎症とは頚肩部の異常に起因して頚肩部から上肢にかけての痛み、痺れ、脱力感、或いは手指の痺れなど様々な症状を訴える病態の総称。この中でVDT作業やスマートフォンの普及で、姿勢等の問題で緊張しやすい部位、後頭下筋群の大後頭直筋へのアプローチ・下頭斜筋へのアプローチ・菱形筋や肩甲挙筋の緊張をとるのを目的とした肩甲背神経の刺激部位である中斜角筋のアプローチを中心に行ないました。
あわせて上項線の下縁に四指を手掌全体で側頭部に固定し、手元に引き寄せるようにゆっくりと間欠牽引するマニピュレーションも紹介されました。触診の手順や刺鍼部位の探し方、刺鍼の深さなどを非常に丁寧にお教えいただき、受講者とペアを組んで実践しました。中斜角筋部へ刺鍼の後せんねん灸をしたのですが、患部がポカポカと温まり、肩甲間部の緊張がとれました。
後半は腰下肢痛の鍼灸治療(腰部脊柱管狭窄症が中心)腰部脊柱管狭窄症は骨性脊柱管の狭小を基盤とし、馬尾や神経根の圧迫や神経内の血流障害により間欠性跛行を主とする症状を呈するもの西洋医学的治療では下肢痛・痺れに対しては保存的療法、馬尾症状を呈するもの(膀胱直腸障害)に対しては外科的手術療法が行われる。鍼灸治療では圧迫された神経根内の血流低下を改善させる効果が期待できる。神経根型でのしびれ感などの異常感覚は単独では少なく、片側性や両側性が多い。馬尾型では下肢や臀部のヒリヒリ・ジンジン・チクチクなどの異常感覚や下肢の脱力感を呈する。
末梢神経へのアプローチとして深腓骨神経領域の刺激は足三里付近への刺鍼、浅腓骨神経領域への刺激は腓骨頭の下の陽陵泉よりも後側のポイントへ刺鍼。鍼は皮膚に直角に腓骨に向けて刺入、深さは5〜10mmでした。刺入後低周波通電を行いました。浅腓骨神経への通電刺激はなかなか心地よいものでした。椎間関節部へのアプローチとして第4腰椎・第5腰椎棘突起の下端より外方に約1.5〜2pのポイントに4〜5センチほど深さを直刺で刺入。私は第4腰椎・第5腰椎の分離症を持っているので、是非ともやっていただきたい施術でした。刺入すると心地よいひびきがあり、患部が軽くなりました。
粕谷先生は病院内の鍼灸施術で多大な実績をあげられ、多くの研究発表をなさっているご高名な先生ですが、とても気さくな方でフランクにお話しさせていただきました。是非2度目もお呼びして、色々とお教えいただきたいと思います。
講演される粕谷先生
実技指導される粕谷先生